2003年の宮間利之とそのパワー
 テレビやラジオの歌番組のバックでいつも活躍していた「宮間利之とニューハード」を知ったのは30年も前のことである。いやそれ以上前だったかも知れない。その後日本の名門ビッグ・バンドジャズ・オーケストラとして、モンタレーやニューポートジャズ・フェスティバルに初出演し、その後ニース、東欧、南米、インドにおける演奏ツアーなど現在も国際舞台で活躍を続けている。最近では2000年6月にニューヨークのJVCフェスティバルに参加している(JVCは昔のニューポートジャズフェスティバル)。定期演奏会や学校音楽鑑賞会と忙しい毎日を送っている。
 宮間利之の音楽活動の原点は少年の頃のハーモニカにあったようだ。先輩ハーモニカ少年の家で聴いた一枚のジャズ・レコード、当時としては珍しく相当鮮烈な印象として心に植え付けられたそうだ。1939年、18歳になった宮間青年は「ジャズをやるなら海軍しかない」、迷わず難関に挑んだ。最もジャズとは縁遠いと思われる軍楽隊だが、音楽、楽器のの基本を学ぶにはここしかない。そろそろ参戦ムードの高まっていた時代のことである。
 海軍軍楽隊で本格的な音楽に取り組んでからはもう60年以上の年月が経っている。「日向」「山城」「長門」「大和」など歴史的戦艦を乗り継ぎ、陸上勤務になって終戦を迎えた。戦後すぐジャズ界に入り、アルトサックス奏者で米軍クラブなどに出演、この頃のアメリカの新しいジャズサウンドにいち早く接することができた。1950年「ジャイブエーセス」を結成し、さらに米軍キャンプを中心にした広範囲な演奏活動を展開、1958年、小羊の群というような意味の「ニューハード」に改称し、楽団もフルバンド構成にした。ちょうどテレビの創世記にあたり、コンサート活動のほかにもテレビ・ラジオの仕事も来るようになった。江利チエミのコンサートは、ほとんどと言っていいほどバックを務めたが、今思い出しても彼女のジャズに対するセンスは偉大だった、と当時をふり返る。日本でビッグバンドの地位が固ったのはこの頃であり、レコード界へのデビューも果たした。80歳を超えた現在でも演奏活動、作品作りは意欲的である。学校音楽鑑賞会を通して、若い層へのジャズ普及活動には特に力を入れている。
 どう見ても60代にしか見えない若々しさ、最近のライブでも、のってくると時には50センチも飛び上がって司会者を慌てさせる。「ちょっと、大丈夫?」と心配する向きをよそに、本人はのりにのって躍動しているのだ。お年にしては音楽に対する意欲、フィジカルな体力、どちらも健在なのである。
 今までに出したレコード(LP)は100枚を超え、CDも20数枚に及ぶ。もう名人の域に達していると言ってもいいミュージシャンだが、なかなか自分には手厳しい。満足できるサウンドが得られる演奏は少ないそうだ。ビッグバンドの音作りにかける意欲は今も昔と少しも変わらない。頑固なのだ。リハーサルの時など、何度も舞台から降りて客席の中段まで駆け上がって行く。「トランペットをもう1ミリ下げて」、と怒鳴る。何のことかと思えば、これはミキサーのスライドレバーのことらしい。「ホンのちょっと」という意味でも人によって「チョット」の物差しが違うのでこう表現するそうだ。どの客席からもいい音で聞いてもらうための拘(こだわ)りがここにある。当然ライブ録音にも相当うるさい面がのぞく。リハーサルはどの曲もカセットに録音して、その場で少し大き目のアンプで再生し、メンバーに聞かせる。「ここをもう少し強く」、ミュージシャンにも細かい指示を出してサウンド作りに力を入れる。「演奏は、まぁよかったが録音は最悪だ」と録音技術者に向ける注文も厳しい。ジャズを理解するPA技術者が少ないことも事実だ。録音は気に入らなくても人気の出るCDも多い、「音楽は難しい!」とひとり言。
 スタンダード曲もさることながら、若者の心をつかむ努力も忘れない。最近はディズニー音楽やルパンIII世のテーマ曲なども研究中だそうだ。ケータイの着メロ人気曲にも耳を貸す。
 パーソナルな面を紹介すると、お酒は一滴もやらない、興じればカラオケにも行き「ボクはこれ(ウーロン茶)で済むので安くあがるょ」。音楽の話になると止まらない。クラシック音楽を愛し、その知識は人後に落ちない、造詣も深い。そんなバックグランドから滲みでるセンスでモダンジャズのあり方を追求し続けている。ガレスピーのマンテカには素朴な楽器が欲しいとわざわざアフリカの某大使館に出かけて教えを乞うほどの研究熱心さである。
 食欲は旺盛で20才以上歳下の私でもついていけないほどだ。中華料理がお好きで近くにバーミヤンが開店すると車を飛ばして出かける。庶民的である。車といえば、都内、近県のコンサートには自ら運転して、誰よりも先に会場に行く。特に、健康に留意するようなエクササイズはやっていないが、日常こまめに体を動かしていること、しっかり食事をとること、が健康の要因だそうだ。

 ニューハードのメンバーはベテラン、若手、中堅とバランスよく構成され、常に野心的で迫力あるサウンドを追求し続けている。今日、世界で行われているフルバンドジャズの演奏は5本のサックス、トランペット4本とトロンボーン4本のブラスセクションに、ピアノ、ベース、ドラムス、ギターのリズムセクションを加えた17人編成が標準である。ニューハードはこの標準編成に作曲・編曲者の山木幸三郎(ギター)を加えた18人で構成され、リーダー宮間利之が指揮をとるゴージャスなジャズサウンドを提供してくれる数少ないビッグバンドである。ビッグバンド・ジャズの演奏を身近に聞く機会がもっとあってもいいと思う。(T.Kubo ジャズクラブ調布・編集主幹 Jan 7 2003)

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