Invitation to the Jazz Live
Report 39
鹿内孝・七夕ライブ 2003

 

 七夕とはいえ今夜は霧雨模様。あの鹿内孝が2年ぶりにサクランボにやってきた。彼のライブを聴く機会は少なく予約席は2週間前からSold Out。例によって楽屋(ミュージシャン控え室)も開放される超満員ぶりである。鹿内孝は往年のファンにとっては素晴らしいジャズ・ボーカリストでも、若い層にはテレビドラマや時代劇の名脇役、個性派俳優としての知名度の方が高い。最近では、こんな本格的なボーカルを聞かせる歌手はほとんどいない。出演ミュージシャン:森田 潔(pf)、青島信幸(b)、木村由記夫(dr)。
 定刻を少し過ぎてピアノトリオのオープニング演奏"STAR EYES"でライブは始った。数分して鹿内孝が現われ星の降るようなイントロ「スターダスト」の熱唱でスタート。彼自身の作詞による台詞(せりふ)が途中に入る。この歌の歌われた背景、情景、ハートを詠った台詞は観客の心のなかにしみ込んで行く、おそらくは何十、何百回と聴いたこの名曲「スターダスト」も、こんなに新鮮に心に響いたのは私だけではなかっただろう。♪Just In Time、♪When You Wish Upon A Star(星に願いを)、とトークを交えたボーカルが続き佳境に入っていく・・
 今夜披露された、スタンダードといってもいい19曲は全て、単に曲名の紹介に終わらず、わかりやすい解説に加えて、中には台詞の入る曲もあり、その曲の歌われた背景がよく理解できるボーカルの数々だった。誰でも一度や二度は聞いたことの有る名曲でも、その歌の意味を知って聞くと新たな感動が湧いてくる。今まで意味のわからない英語の歌を、これがボーカルだと思って聞いていた向きには、今夜のライブによってそれが誤りであることに気が付いたことだろう。鹿内孝の本場仕込みの正確な発音の裏付けがあってこそ言えることだが。

 宴半ばを過ぎた、野球で言えばラッキーセブンにあたる時間に ♪7th Inning Stretch が始った。メジャーリーグでは恒例の行事で7回に観客がストレッチをするときに席を立って自然発生的に歌われる歌である。曲は♪Take me out to the Ball Game.(野球に連れてって!)。あらかじめこの歌の譜面と歌詞のコピーが配られていて、「ストレッチの代わりに全員でこの歌を歌いましょう!」、心憎い演出である。一小節づつ鹿内孝が歌唱指導をし、最後には全員揃っての見事な合唱になった。余談だが、メジャーリーグは何度か観戦したことがある。イチローや松井が活躍するずっと前の話である。確かに、ラッキーセブンになると観客がめいめいに立ち上がって歌い始め、このメロディが聞こえてくる。広い球場のこと、そんなに揃っているものではなくバラバラで歌詞もよくわからない、これが現実である。今夜は名ボーカリストと観客が一体になり見事に揃った♪Take me out・・を聴くことができた。目から鱗(うろこ)の落ちる思い、とはこのことだろう。

 終章はフランクシナトラバージョン。♪It was a very good year.、Let me try again.、My Way と続き、最後は♪The Party's Over、喝采のうちにライブは終わった。気がつけば10時をまわっている。バックの演奏は鹿内孝の持ち味を損なうことなくフォローしていて気持ちがいい。曲目の選択もよく考慮されている。トークショウの色合いの濃いライブだが、ミュージシャンと観衆の間の一体感、これこそジャズライブの真髄である。休憩無しの2時間だったが、この間1秒たりとも観客を飽きさせることなく、鹿内孝のこの夜の演出にも拍手を贈りたい。

 【ライブ夜話】

超満員のさくらんぼ
 鹿内さんはレディのファンが多く、この日はロスや軽井沢から駆けつけたご婦人もいた。また、あるご婦人のグループはうっとりしていて全員帰りの電車を一駅のり過ごしたそうだ。
 著名なジャズ評論家・瀬川昌久さんも見えていた。鹿内さんのライブは滅多に聞くチャンスがないからだ。
 ライブは8時スタートだったが、リハーサルは3時過ぎから3時間みっちり行われ、これだけでも相当な労力である。聞けばこの日の為に、ピアノとの音合わせを2回、全員での練習を1回行って今夜のライブに臨んだとのこと。歌やトークの素晴らしさはもちろんだが、観衆を楽しませるサービス精神の裏にはこんな隠れた努力あるのだ。これが一流アーティストのライブである。7 July 2003 T.Kubo




2003 7 7 の出演者
青島信幸森田 潔木村由記夫